「ソリはすべて停止し、いちばん先頭にはノルウェーの国旗がへんぽんとひるがえっていた。
旗はおのずからひらいて、さらさらとみごとにはためき、絹地が輝いていた。
清明な外気と、ぎらぎらとまぶしく白い世界に、それはすばらしい眺めであった。
ついに南緯八八度二三分を通過したのだった。
われわれは、どんな人間がきたことのあるところよりもさらに南にいたのである。
この探検旅行中、この時ほど感動したことはなかった。
あふれてくる涙をとめようもなかった。わたしの心をとらえたのは、そこにある旗であった。
さいわいわたしはほかの者よりいくらか前方にいたので、同僚達のところにいくまえに、
自制して、感情を落ち着かせるだけの時間があった。
われわれはみなたがいに手を握り合って祝福しあった。
われわれは団結することによってこんなに遠くにくることができたのだし、
またさらに遠く───目的地までいくのだ」
(『生と死の極限心理』中、「南極点征服」より)
この言葉を読めただけで正直価値があったと思いました。
全部見終わってもまだ言うくらいに大好きなんですよ!
単純なのに胸に迫ってくる言葉遣いのリアルさや、息の弾むような臨場感が。
現実の言葉に勝る厚みはないなあ。進行形の言葉だから余計に感情移入しちゃうのかな。
この人の視点を借りると、世界は凄く綺麗に見える。
そんなこんなで先日の本をようやく読み終わりました。
図書館に返す前にメモ。
大本は「生と死の境で生き残る人、命を落とす人」という本の改稿版だったようで、
こっちのタイトルの方が確かに分かり易いなと思いました。
知りたかったことがおおむね知れたし、触りたかったことも見えてきた気分で、
読んで良かったなというのが一番の感想。
本の序盤では、一部の人達が持っている恐怖を越えた勇気が書かれていて、
リアリティに拘るとここ最近はどうしても思い描けなくなりがちだった、
人の眩しさや高い志をもう一度創作軸に置くことが出来るようになって。
想定外の拾い物だったけど、それが一番の収穫だった。
まだまだどこかに信じられるし、信じたいものだな、と思えたのが嬉しい。
大半を見ればやっぱり人の心は柔くて痛み易い、ということも、
生還者の人の事後にも残ってしまう心傷や群集心理の面から理解も出来て、
少しまたリアルとフィクションの境目に悩みだしてもいるのだけど、
(強さと弱さのバランスとか、現実感と気持ちよさの比重だとか)
それでも、明るい面も影の面も人の中にあるものなら、
私自身はなるべく前者を表現していけるといいなと思う。
……ところで、守りたいものが出来てしまうと、
一部(守りたいもの)に対して以外は見識や行動幅が狭くなるし、
弱くもなってしまうなあと思っていたのだけど、
そういう状態からこそ出来る別の心の落ち着け方もあったのかもしれないな、と、
今更に思ったりもし始めた。満たされてるからこその落ち着き、だとか。
多分そういう方向の表現や心の移り方だってありだったんだろうな。
いつも一杯一杯だった自分を振り返って、色々若かったなとしみじみ。
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