正確には演劇の戯曲なのだけど、書籍媒体なので一応本のほうで。
今年度の戯曲賞を取っていた作品だったので、
ちょうど演劇に興味を持っていたこともあり試しに購読。
「監視カメラが忘れたアリア」
「リアリティ・ショウ」
「グローブジャングル」
の三部作構成での戯曲集でした。
一部の登場人物が次の作品に出ていたり、
・インターネットやカメラ(という媒体を通しての匿名多数の目線)、
・演劇に携わる人間たち(=他人に見られることを一般人以上に体験する人間たち)
という題材が共通して扱われていたものの、作品同士の繋がり自体は特になし。
人の弱さとか、簡単に生まれる敵愾心とか、どちらかというと人間同士の間に
生まれる暗部を主に取り上げてるような感じかな、という印象でした。
役者さんが演じればもう少し身近に感じられるのかもしれないけど、
戯曲のみを読むと、ネットという媒体の否定的な側面の方が多く描かれていることもあって、
モヤモヤした気持ちは結構胸に残ってしまう。
もっとも、このあたりはネットを介しての多数の目線、
大勢の中の一人になることで飲み込まれてしまう人の理性みたいなものを
表現しているだけのような気もするので、噛み付いてしまうのは早計なんだろうな。
ネットのみに拘らず、人の善意や、顔を見せないことで渡せる温かみとかいった
悪意と対極に位置するものが殆ど描かれていない点にもモヤモヤは沸いてくる。
それだけ人の弱さは簡単に出るけど強さは難しい、という視点の話なのかもしれない。
分かり合うことの難しさが何より伝わってくるお話ではあったと思う。
「警鐘」を書くだけじゃなく、
その対極になるものも描いて欲しいというのは個人的な好み。
だけど、人を驚かせたり冷たい思いをさせるものだって必要だとも理解出来るし、
ネガティブな話への嫌悪は、突き詰めれば刃物を取り上げるような意識、
不快なものから目を背けたい気持ちの表れなのだから、
結果として読んでよかった、いいネガティブを頂けたと言う気持ち。
全体的にあまり救いは多くないお話たち。
社会に救いは用意されてないよ、だから個人で見つけないとなんだよ!という激励なのかも。
「気づきましたか? 危険防止のために、残っているグローブ・ジャングルは、
どんどん回しにくくなってるんです」
「公演から遊具自体がどんどんなくなっているんです。住民の反対で」
「それは……」
「グローブ・ジャングルだけじゃなくて、ブランコも滑り台も反対されて、
ベンチだけしかない公園が続々とできているんです。嫌な国になりました」
グローブ・ジャングル/鴻上尚史/
本なので一応こちらのカテゴリに。
文庫ではなくて普通のハードカバー本でした。
科学畑の人は人間関係に不器用そうだという思い込みがあっただけに、
全章通した『物を作ることは人の心を育てることだ』という熱い持論展開にまず驚かされた。
特に教育現場に憂いを持たれている方でもあるようで、
そこの考え方自体には納得もいく立場(教育者)の方ではあるのだけど、
物を見る視点から感じる柔らかさ、ナチュラル感にちょっとびっくりした、と言うべきか。
勝手にイメージしていた斜めっぽさがさっぱりなくて、
それこそ精神科医の人が書いている本にも感じる読み触りだった。
科学者というよりも技術者、むしろ職人さん的な印象かな。
専門の工学だけではなく、心理学や禅、仏教の精神も引っ張ってきている内容で、
科学者さんに対する固定観念もするっと吹き飛ばされたし。
ロボット製作って言うのは、ようするに人の構造を機械に真似させる発想なのだし、
ロボットに興味がある人が人間には興味を持たない、っていうイメージは
よくよく考えればちょっと軸が外れた想像だったのだよなあ。
とは言っても、本の内容自体は人間と機械を比較したり、
人の構造を説くために機械作りを説明していく、というようなものではなくて、
自分の手で何かを作ることでどれだけの発見があり、人の心が成長するかを説こうとしてる。
ロボット作りのワクワク感、ゼロから設計して壁にぶつかったり工夫を繰り返すことの大事さ、
そういうものを子どもの時代から持つことがどれだけ大切か、
それをしっかりと確信を持って本に仕立て上げられているような感じでした。
あとは、物は出来上がっていて当たり前、の現代風潮をやや批判した内容でもあったかな。
自分の手と頭でまずは考えなさい、考えさせなさい、って感じの教え方。
個人的には、その狙いより、色々な思い込みを取り払うという意味で勉強になった。
日常的にあまり触れることのない職業に就いている人の中にある、
自分の職業への思い入れや、人を見る思想のありかたを分かりやすく知れたこと。
心理学について少し解説してあった章とが一番楽しかったかな。
人の心理については1300年以上前の段階で既にある程度が解体されている、とか、
その辺りが一番読みにくくて興味深かった内容だったので、
そちらについてはいつかもうちょっと別の本を読んでみたい。
あと、子供のロボット作りについての実践レポートが取り上げてあった項も、
懐かしくて参考にもなった! 子供のパワー凄いなー、侮れないなー。
ここで挙げられていた通りの思想を日常に実践することはなかなか難しいけど、
また時間を置いてもう一度読み返してみたい本ではあるなあ。
怒りはどうやって形にしたり表現すればいいのか、
その置き所に対する悩みをどうにも長いこと抱えていたのだけど、
怒りや不快感を一種類の感情ではなく、色々な種類に分類する考え方がある、
ということを知れたのも、とても開眼するような思いだった。(煩悩と髄煩悩のくだり)
怒らない、ということと、怒りをコントロールすることは似て異なるものなんだなあ。
感情は抑えるのではなくて、こし器でこすのが、誰の胸にも優しいやり方なのかも。
文庫版が出ていたのでようやく購入。
思いっ切り書き込めそうな人間社会を、
芯の通った優しさとときめきで酢締めしてあるのが有川テイスト。
あれから色々読んだのでちょっと付け足し。
夏木さん大好き。クジラの彼の夏木さんも大好きすぎてやばい。
さておいて。
夏木さんたちの魅力あるキャラ立ちは勿論のことなんだけど、
まず目が行ったのは、親の手の上でコミュニティを作ってしまう中高校生たちの微妙な心理。
親の考えに知らず影響されちゃう子どもの悲しさといったらないのだけど、
現実問題そんなものだよなあとも感じるリアルさがあった。
ちょっと心理学の本を読んでみた後に改めて思ったのだけど、
もしかしたら有川さんは心理学関係の知識もある程度お持ちの人なんじゃないだろうか。
児童心理というか、親子関係についてかな?
図書館戦争別館の一巻で、母親の呪縛に郁が縛られている、と麻子に指摘されたシーンなんかは、
丁度最近読んだ内容にドンピシャだったし。
海の底に出ている子供たちについては、
まだ子供のままなのでそんなに明確なトラウマは出ていないのだけど、
親の些細な言葉に傷付いたり、不安を確認出来ずに誤解したまま身を縮めたりしてしまう、
キャパシティの小さな子供の目線は至極それらしいなと思う。
少し関係ない話に飛ぶのだけれど、別冊一巻の小牧さんの実家の話も凄いリアルだったんだよな!
誰かしらの実体験なんじゃないかと思ってしまう位の生っぽさがあった。
あの下りは鞠江ちゃんの返事を含めてかなり好きなシーン。
有川さんの物語は、正しいことを選べる人が選べない人の弱さをきちんと否定するお話だよね。
話を戻して。
ああした、ごく手近なところにある人間関係の難しさが書き出されている一方で、
今の日本が抱える複雑な防衛事情、辛勝前提で戦う現場の大人の悲壮な立ち回りも書かれてて、
あちらは不謹慎ながらにも凄くドキドキしながら見守ってしまった。
ああいう風に犠牲になることで道を作るしかない人も居るんだろうな、実際に。
問題が差し迫らないと危機感を抱けない国民性は問題なのかもしれない。
これは自分も含めてでもあるのだけど。
普段は意識しない専門職の人達の全力での攻防戦まで手抜きなく書かれていて、
物事を考える題材にまるで困らないそんなお話。
私の場合はひとまず、有川作品ではこの本が一番好きでした。
ちっちゃい子たちの屈託の無さは癒しだったし、
夏木さんの真摯さと不器用さが物凄い好きだった。
その内クジラの彼もきちんと買いたいな、と思う。
有川浩「ラブコメ今昔」、東野圭吾「秘密」の二冊を読了。
落差が、落差が激しすぎた……!!!
主人公サイドに視点を寄せて読んでしまう性質なので、
「秘密」のオチが苦しくてもう胃がギリギリする羽目になりました。
リアルだなあとも思うのだけどね、あの流れ! せつねええええええ。
「ラブコメ今昔」でによによしてた空気が一度に吹っ飛んじゃったよ!
少し間を置いてみて。
多分、論理的に歪んだ関係を何度かの機会で選べていれば、
罪悪感を共有しながらも、主人公は奥さんを無くさない結末になっていたんじゃないだろうか。
なんとなく、奥さん側もそれを望んでいた気持ちがどこかにあったように感じる。
中途半端な状態が苦しくても一人では娘を殺す勇気は無いだろう奥さんにとっては、
一線を越えて貰うことは、多分諦めと許しを得ることでもあっただろうから。
一方で、そこまでは選べなかった主人公の、父親としての真っ当さと独占欲も勿論理解はできる。
というか、そりゃあヤキモキモヤモヤするよな!!!とも素直に思ってしまう。
あのどうしようもないレベルのすれ違いが、
お互いの気持ちをきちんと言葉で伝えたり線引きできなかったところに原因があるのか、
状況を考えればそれ自体がどうしようもないことだったのかは分からないけど、
結局、心が修復不可能なレベルに擦れ違ってしまっていたんだろうな。
男と女の心の作りの違いをどうにも感じてしまう流れだと思う。
……どこまで遡れば良いんだろうな、小学校時代の精神的浮気かな。
あの主人公の立ち回りと心の動きはある種の覚えがあるものだと気付いてからは、
余計にやるせなさとどうしようもなかったんだろうなあという納得感が沸いて止まない。
何も捨てることが出来なかった主人公の心は、正常な状態の父親、夫として至極納得がいくし、
主人公が一時的に心境が変化してる内に自分を捨てることを決めた奥さん、
というあたりには、女性の現実主義な面や心の繊細さを感じてしまうし。
賛否両論と言うか批判は多そうだけど、リアルだよ! 東野圭吾は本当に上手いなーー!!
有川さんの本はそこそこに置いてくれてました!
後半二冊はまだ貸し出し中だったので、図書館戦争→図書館内乱→レインツリーの国(今ここ)。
キャラクターが良いし文体も読み易いしで、肩が凝らずに読める本でホクホクしました。
堂上教官に慌てて飛んで来て欲しい!よりも、
慌てて飛んでくる堂上教官みたいなキャラ動かしてみたい!と思ってしまうのは、
色々と間違っているような気がします。
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