「葦の穂綿」、「半夏生」、「冬霞」
の短編三本を収録。
内二本は恋愛も含まれてはいるものの、
共通して「罪」をテーマに取り上げた、少女漫画と言うより大人の漫画。
羅川さんの作品が一個でも性に合うなら、是非にとお勧めしたくなる話だった。
善も悪も救いも理不尽もあるのが、世の中にある当たり前さだと思う。
人を登場人物に扱う以上、そこをどう切り出すかは避けて通れない問題で、
リアリティを突き詰めるにせよ、敢えて楽観的に描くにせよ、
舵取りに真面目に取り組んでいる作品の場合、伝わってくる空気はやっぱり桁違いになる。
これはそういう話で、この人の漫画じゃないときっと伝わらなかっただろうなという作品。
どちらかといえばマイノリティに属する部分だったり、社会の端側にいる主要人物ばかりの話なのだけど、
敢えてその属する部分そのものにではなく、そこに居る個人にしかライトが当たっていないので、
こちらとしても単純な個人で話を受け入れることが出来た。
短編三つ、答えは各々だけど、一つとして「罪」そのものが帳消しにされている話はない。
実際のところ、誰もがこんなに強く居られるわけではないと思う。
人の中で生きる以上は傷をつけられていく筈だし、
どんなにその場で足掻き抜いたところで、完全に確定した時間なんかは作り出せる訳じゃない。
罪や罰の定義も本当の意味ではその場に関わった人間しか出せるものではないし。
でも、少なくともこの作家さんはそれを願うだけの力があるからこんな話が書けたんだろうなと思うし、
真摯にそれを主張してくれるこの人の声が、だから私はとても好き。
こんなに自然に影と救いを両立させてる作品は、あまりお目にかかった記憶がない。
三本とも全部好きだけど、「葦の穂綿」はかなり異質な空気感。
これこそ書いてもらったことに一番意味のあった話だと思う。
あと、やっぱり最後に「冬霞」があるお陰で安定感を貰えたようにも感じるので、
この構成は正直有難かった。やっぱり一番好きな話もこれだしな。
立ち上がることが出来れば世界は変えられる、という実感まではある。
でも社会の作りそのものがそう優しくないこと、弱い立場は辛くて苦しいというのも本当のことで。
降りかかる理不尽や不運は、やり過ごすか捻じ伏せるという向き合い方以外は知らなかったし、
結局のところは自分が変わる、闘う、という選択肢しか最後には無いように感じてしょうがなかった。
でも、この話を読んで初めて、闘わなくても良いのか、と思えた。
感じたものを形容するのはとても難しいけど、一歩目を貰えた気分になったとでもいうのかな。
そういう意味でも凄く胸に来るものがあって、手に取って良かった本だったと思う。
久し振りに「おおきく振りかぶって」を全巻読み直し、
その勢いで「ヤサシイワタシ」「家族のそれから」も読破。
気が付いたら朝方になってて、時間の飛びっぷりにビックリしてしまった。
漫画を読んで夜明かしとかひっさしぶりだなー!
ひぐちアサさんの漫画は、基本的に群像劇だし、
分かり易く見せてくれる部分と語りきらない部分とがある方なので、
年齢を重ねてから読み直すと採掘できるものがごっそりあって面白い。
濃度の濃い漫画の証拠だなあ、こういうの。
同じ濃さのある漫画でも、日本橋さんのG戦場や極東なんかは、
読む度に同じ感情とエネルギーとが沸き立ってくるので、
私にとってはモチベーションを引っ張り起こす起爆剤みたいな位置づけなんだけど、
ひぐちさんの場合は本当に噛む度に味の違うスルメ漫画で。
G戦場にあった「本当に良い漫画は心が健康じゃないと書けない」って台詞と、
「おおきく振りかぶって」は、私の中で物凄く繋がるような印象がある。
楽しいよ!ってエネルギーがバシバシ伝わってくる漫画だし、
作者さんの肩入れや精神的な偏りが一切感じられないあの徹底した雰囲気は、
全キャラクターの保護者の視点、それこそ監督の視点みたいで、
漫画を書くことに癒される必要性のない人の余裕と安定感が一番感じられる。
なにより、「ヤサシイワタシ」や「家族のそれから」と見比べると、
自己主張のない話作りは元々の作風じゃなくて、
意図して作られてる空気なんだろうなってことも良く分かるし。
もしかしたら前作にあの二冊があるからこそ書ける漫画でもあるのかもなあ。
その前作の「ヤサシイワタシ」の方は、
本当に語りたいことを受け取れてるのか自信が持てなくもあるのだけど、
あれは書いてる間は相当苦しかっただろうなあと読む度に感じる。
主人公の台詞に物凄く同調出来てしまう分、実は評価に難しい漫画でもあって。
ただ、ああいう書き方でキャラを真っ向から殺して、それを話の主題に置くのは、
裸になることや擬似的な遺書を偽造するような感覚に近いんじゃないだろうか。
徹底的に好かれようとしてない漫画な分、余計に色々な感想が見越せただろうし。
ああいう漫画を世に出せて、その後に「おおふり」みたいな作品を書けてることは、
両揃えで本当に凄いことだと思う。
人に勧めたいと言うよりも、全部好きなんですよってって人とは仲良くなりたい。
なれるような気がする。
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