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長続きを目指す感想だとかの書き込み日記です。20080219に作成。
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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by セージ - 2010.02.24,Wed

正確には演劇の戯曲なのだけど、書籍媒体なので一応本のほうで。
今年度の戯曲賞を取っていた作品だったので、
ちょうど演劇に興味を持っていたこともあり試しに購読。

「監視カメラが忘れたアリア」
「リアリティ・ショウ」
「グローブジャングル」
の三部作構成での戯曲集でした。

一部の登場人物が次の作品に出ていたり、
・インターネットやカメラ(という媒体を通しての匿名多数の目線)、
・演劇に携わる人間たち(=他人に見られることを一般人以上に体験する人間たち)
という題材が共通して扱われていたものの、作品同士の繋がり自体は特になし。

人の弱さとか、簡単に生まれる敵愾心とか、どちらかというと人間同士の間に
生まれる暗部を主に取り上げてるような感じかな、という印象でした。
役者さんが演じればもう少し身近に感じられるのかもしれないけど、
戯曲のみを読むと、ネットという媒体の否定的な側面の方が多く描かれていることもあって、
モヤモヤした気持ちは結構胸に残ってしまう。
もっとも、このあたりはネットを介しての多数の目線、
大勢の中の一人になることで飲み込まれてしまう人の理性みたいなものを
表現しているだけのような気もするので、噛み付いてしまうのは早計なんだろうな。
ネットのみに拘らず、人の善意や、顔を見せないことで渡せる温かみとかいった
悪意と対極に位置するものが殆ど描かれていない点にもモヤモヤは沸いてくる。
それだけ人の弱さは簡単に出るけど強さは難しい、という視点の話なのかもしれない。
分かり合うことの難しさが何より伝わってくるお話ではあったと思う。

「警鐘」を書くだけじゃなく、
その対極になるものも描いて欲しいというのは個人的な好み。
だけど、人を驚かせたり冷たい思いをさせるものだって必要だとも理解出来るし、
ネガティブな話への嫌悪は、突き詰めれば刃物を取り上げるような意識、
不快なものから目を背けたい気持ちの表れなのだから、
結果として読んでよかった、いいネガティブを頂けたと言う気持ち。

全体的にあまり救いは多くないお話たち。
社会に救いは用意されてないよ、だから個人で見つけないとなんだよ!という激励なのかも。


「気づきましたか? 危険防止のために、残っているグローブ・ジャングルは、
 どんどん回しにくくなってるんです」
「公演から遊具自体がどんどんなくなっているんです。住民の反対で」
「それは……」
「グローブ・ジャングルだけじゃなくて、ブランコも滑り台も反対されて、
 ベンチだけしかない公園が続々とできているんです。嫌な国になりました」
グローブ・ジャングル/鴻上尚史/

 



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・「監視カメラが忘れたアリア」
仕事で監視カメラを見張っていた夫は、ある日の街中に妻の姿を見つける。
しかし妻は街には出かけていないと嘘を吐き続け、
夫は次第に妻の持つ秘密を疑い始める。
一方、彼等の母校である大学では、当たり前になった監視社会への
むなしい抵抗を続けるカンカンカイ(監視カメラを監視する会)のメンバーと、
弱小の演劇サークルが活動場所を巡って諍いを繰り広げていた。
街に仕掛けられた監視カメラを見る職務の警察官とその妻。
監視社会への反対を主張するカンカンカイ(監視カメラを監視する会)の面々、
カンカンカイと活動する場所を取り合う演劇サークル。
三者三様の視点の人物たちが、見られてしまうことや隠したいこと、
監視することやされることへの意識を日常の中でそれぞれに煮詰め直していく。
見られたくないものばかりが浮き彫りにされていく監視社会の中で、
秘密を守り通すことは出来るのか、さらけ出そうとする真実に価値はあるのか。

・「リアリティ・ショウ」
一つの劇団が再生をかけ、24時間中継の
ネットライブで共同生活を配信する企画に参加。
その目玉として、元・カルト教団信者であるタレント女優が合流し、
彼らは皆で芝居の稽古を行うことになる。
しかし、配信され続ける共同生活へのストレスや、番組企画としての要求、
ユーザーからの需要など、不特定多数の目が次第に彼らの心を追い詰め、
参加者たちは人の好奇心や利害の渦にじわじわと翻弄されはじめていく。

・「グローブジャングル」
過去のブログ炎上話などがモチーフになっている作品。
日本から様々な理由でロンドンに逃げてきた日本人たちが、
演劇という形で繋がり始めながらも、ネットという『過去の記録』から、
自分たちが持つ過去に再び迷い、傷つけられていく。
安全対策の名の下、公園から失われる遊具たち。
表現の自由を奪われ、子供の手から取り上げられていく昔話たち。
誤る、ということに過剰な敵意と防衛心が働く現代社会の中、
脛に傷を持つ彼らはどんな未来を辿ることになるのか。


→各話への個人的感想。

・監視カメラが忘れたアリア
※個人的には秘密は必要だと思う派。辛くならない範囲で。
人間関係は、多少は信用取引なところがあった方がファジーで良いと思うから。
そんなに意味があるように感じられない国家批判も若干入ったりしていので、
その辺りにはうーん、と唸ってしまい、あまり話に集中できなくなってしまった。
確かアメリカの学校では、実際にイジメを防止するために監視カメラを設置していたはず……
と軽く検索をかけてみたら、それを取り扱った作品が出てくる出てくる。
いじめ対策と言うより、どちらかというとセキュリティの問題みたい。
実際問題になってるんだな、こういう話。
日本という国については、むしろ愛国教育は非常に薄弱だから、
他の国の行き過ぎた在り方を投影するのはとても問題がある気がするんだけどな。
監視カメラを否定するほどには善意の恒久性を信じられないし、
人を監視するということに見る側が驕ってしまうという恐ろしさもあるんだろうし、
考えてみると、ここにもまた人間を信用するかどうかの問題があるんだな。面白い。
色んな意味で、自分の頭で物を考えられる年頃になってから見たほうがいい作品。 

・リアリティ・ショウ
※外国の、同タイトルの企画番組が元ネタ。
日本で言うところの電波少年とかあいのりとか。
話としてはあまり救いがないのだけど、
結末を含めて一番分かり易く納得の行く話だった。
動画サイトなんかを見てると、実際にこういう展開は有り得ると思うし生々しい。
画面の向こうに居る人物たちからネット世界を見れば、
きっとこういう視点になるのだろうと思うし、閲覧者側もそういう見方になるはず。
万能感と引き換えに、隠れているリスクを知らずに背負わされるという点については、
話中に出てくる占いの流れも、多分、同じようなものなんだろうな。
アナログでもデジタルでも、人と心を通わせるのは難しいというお話。
登場人物同士の心が、誰一人として通い合っていない、繋がっていないのが象徴的。

・グローブジャングル
※人間は誰にも未熟な時期があるけれど、縁のない他人はそれを見逃してくれない。
そこにネットという武器が使われた時には強烈な凶器にさえなってしまう。
黒歴史で済む過去は運がよく、晒されたり批判を受ければ
一生の傷にもなりかねないし、アーカイブは誰でも手の届くところに延々と残り続ける。
現代は、失敗を弾劾するロシアンルーレット的な社会になりつつあるのかもしれない。
そんな怖さを取り上げたお話。正直なところ感想は抱き辛いお話なのだけど、
ただここでネットを怖がって規制するのでは、グローブジャングルや遊具を奪った
大人たちの過剰な判断と同じことだよ、という視点もきちんとあったりするので、
けしてネット批判という物語でもないのだと思う。
手痛い失敗で人生を追い詰められてしまった人たちは、
ほんの少しだけ傷を癒し、その言葉はまた電波に乗って流されていく。
過去のアーカイブと同様に、その思いもまた、誰かの居るどこかへ。

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「桃太郎は旅に出ることにしました。どこかにある悪意のない世界にたどり着くために、
 悪意の塊の場所へ」
「悪意という鬼を慰め、殺すために」
グローブ・ジャングル/グローブ・ジャングル劇中話「桃太郎」

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