昔、確か二人くらいにお勧めを受けていたような気がするお話。
なんというかもう、私は関根君みたいなフレーム外に立ったキャラが大好きなので、
彼が主役格というだけで充分楽しめてしまいました……。
兄弟関係の系譜とか、歴史のある大きな日本家屋に住んでるとか、
フラットで洗練された性格にそぐわない古風なキャラ造形がどうにも美味しい。
そんな個人的趣向とギャップ萌えはともかくとして。
物語を楽しむ第一条件は主要人物に悪い意味でのアクが無いことなんだと
しみじみ感じる「良い雰囲気」がとても飲み込み易かったです。
もちろん、話の主体にあるのはあくまでホラーテイストの空気だし、
人が持つマイナス感情だって描かれていない訳ではないのだけど、
この作家さんはとにかく粘着感のない書き方をなさるので、苦味無くスルスルと行けてしまう。
多少出来過ぎのキャラが多かった気はするけど、その辺踏まえての進学校設定なのかな。
それはさて置き。ホラーっぽい設定にやや身構えていたものの。
主要人物がリアリストであり、また作家さん自身のさらりとした語り口のせいか、
物語全体を包むのは通り雨のようなほのかな薄暗さでしかないので、
怖い話が苦手な私でも案外大丈夫でした。
あと、ささいな日常描写になつかし回路を刺激されることも結構多かったです。
お話から映像を思い浮かべにくい私でも、珍しく光景を想像しながら読めたくらい。
消化不良かな、とも感じるあえて放り出された気がする疑問の幾つかについては、
あのオチでは伏線を回収しきることは出来なかったのだろうし、
主人公は関根君たちではなく「高校生」という世界そのものの方だったのかなとも、少し。
そう考えると、卒業を迎えた時点であのキャラたちの内面やその後は
もうカメラのピントから逸れてしまったんだろうなーという納得感はあるので、
明快ささえ求めなければ結構楽しめたお話でした。
通り過ぎた謎は解けないままというあたりの生っぽさが、良い薄暗さを醸してるような気もしたし。
あの子たちが自分らしく生きていける時間は主役を降りたこの先からになるんだろうなと、
先を見られない純粋な物寂しさはそんな理屈で宥めつつ、ひとまず読了。
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